1982年に発表されたアルバムで、Kellyが残した唯一のソロアルバムです。タイミング的にはTimeとSecret Messagesの間に位置し、Jeff Lynneは参加していませんが、Bev Bevan、Richard Tandy、Louis Clark、Mik KaminskiとELOサウンドの職人達が協力して作られたアルバムなので、ミニELOサウンドとしては愛すべき作品となっています。
このアルバムは最初ヨーロッパでRCAよりリリースされ、その後USでRIVAから一部の曲を差し替えて再発がなされました。ながらくCD化されなかったのですが、2001年にKelly自らがリマスターして独自リリースとなっています。
Kellyは1974年から83年までELOに在籍し、アルバムとしてはFace The Music、A New World Record、Out Of The Blue、Discovery、Xanadu、Time、Secret Messagesに参加しました。それ以前のキャリアは確かMartin Kinchのウェブサイトにインタビューが掲載されていて、そこに詳しかったと思います。もともと左利きですが、左利き用のギターが存在することを知らず、右利き用の楽器を練習したそうです。コンサート写真などで、彼が右利き用ベースを演奏しているのはそういうわけです。
Michael De Albuquerque脱退後、JeffとBevがKellyのギグを見に来てスカウトしたというのは有名な話であり、Eldoradoツアー以後ベーシストとして、セカンドヴォーカリストとして活躍しました。ELOはJeffのバンドですから、在籍中は楽曲について目立った貢献をしているわけではありませんし、「Jeffが指示したベースラインを弾いているだけ」と言われることもあります。しかし、彼の特徴ある歌声は紛れもなくELOサウンドの一環であり、Kellyの参加なくしてあのファルセットコーラスは生まれてこなかったのではないでしょうか。また、ライブにおいては時々リードを任され、Jeffが一休みするリリーフ役を堅実にこなしました。
しかし彼の契約は他の3人と違い、雇われの身でした。JeffとBevはELO名義の所有者であり、オリジナルメンバーでしたし、Richardはアレンジャーとしてクレジットされています。ですが、Kellyはバンドのコアとしてではなく、あくまで使用者であるJeffとBevから給料を受け取っていたのです。そのため、ELOが世界的な成功を収めても、彼には規定の報酬しか支払われません(もちろん、VIP待遇のフライトとか臨時収入はあったにせよ)。そのため、バンド収入の1/4を要求して提訴。結局そのまま脱退に至ってしまいます。ちょうどJeffがsmall bandを目指していた時期でもあり、実際Secret MessagesセッションでKellyが演奏している曲は半分以下だったかと思います。
以後、彼はソロとして活動しつつ、同様にELOスピンアウト組のMik Kaminskiと一緒にOrKestraを結成。これまた素敵なアルバムを2枚残しましたが、商業的には恵まれず。結局ELO Part 2に合流し、自然経過としてThe Orchestraに至っていました。私はThe Orchestraの最後のライブがいつだったかとかの追っかけはしていませんが、昨年にもUKや東欧でコンサートをしていたはずで、体調が悪いような話は最近なかったと記憶しています(以前に、のどの調子が悪くてライブを休んだというニュースがあった程度)。
しかし、本日朝起きてメールを見たところ、Kellyと題されたメールが何通も届いており、そして彼の悲報に接することになったわけです。
私は残念なことにKellyとじかに会ったこともありませんし、直接メールをやりとりしたこともありません。ですが、残されている写真でのKellyはいつも笑顔を絶やさず、しかもおどけた表情もしばしば見せてくれました。彼は生粋のエンターテイナーであったのだろうと思います。
そして、忘れてはならないのは彼のサウンドです。Kellyが本当に作りたいサウンドがどんなものかはともかく、50-60年代をテーマにしたライブを開いたりしているところを見れば、少し古めのシンプルなロックが好みなんじゃないかなという気がしていました。しかし、彼が中心になって作ったレコードで展開されている曲は、JeffよりもむしろELO的ではないかと感じさせられるものも多数あります。
これは私がいつも言っていることで、真実かどうかはわかりませんし、異論は皆様あるでしょう。しかし、Kellyはレコードを買ってくれる人、コンサートに来てくれる人が何を求めているかを察した上で、ELOサウンドを彼なりに再現しようとしていたのではないでしょうか。昔、村上太一さんが今回のソロアルバムを評して「Jeffの1/10の才能」とか書いておられましたが、今から思えばそれは間違ってはいません。ですが、Kellyは彼のタレントを、「ELOファンを楽しませるために」使うというやり方を知っていました。
彼がJeffと袂を分かってから、ふたりに関係修復の兆しがあったようには聞いていません。ですが、そのような確執があったJeffに対し、Kellyが残したコメントの多くは否定的なものではないのです。とりわけ、Jeffが作った曲については(まあ、飯の種ということもあるにせよ)、絶賛している談話が多数あります。ですから、悲しむべき経緯はともあれ、KellyはJeffの最大の理解者のひとりであったのではないかという気がしています。もしELOサウンドを再現しようというプロジェクトが実現したとすれば、Kellyこそがexecutive producerを務めるべき人物だったのではないかとも思っています(そんなことはあり得ませんけどね)。
さて、このアルバムですが、CDに準じて曲を語るなら、T1-9はRCA盤と同じ曲順で、本来はその後にT12が来るのですが、RIVA盤で差し替えられていたT10とT11(かわりにT4、T6が省かれていました)を挟んでいます。T13とT14はボーナストラックで、ともにPlayerという名義で発表されたシングルに入っていたバージョン。T14はT1と同じ曲で、Mik Kaminskiのバイオリンがミックスされています。
聴きどころはT1のAm I A Dreamerであり、展開にマジックが欠けていると言われればそれまでですけれども、これは疑いもなくELOサウンドの再生産です。ただ非常に残念なことに、このCDにおいては高音の歪みが強く、聴いていて辛くなってしまうくらいであり、ここがきちんと再現されていたらと残念でなりません。
もう1曲あげるとすれば、彼が珍しくしっとりと歌うDear Mama。これは兵隊として戦場にあり死を覚悟した息子が、母親に向けて最後の手紙をしたためているさまを歌った曲です。I don’t mean to make you cryという歌詞があり、これが現在の私たちに向けて歌われているように感じてなりません。
このCDはKellyのオフィシャルサイトで販売されていましたが、現在は品切れになっていると記載されています。今後、何らかの形で再びファンに提供されることを望んでいます(数曲RealPlayerで聴くことは可能です)。http://www.kellygroucutt.co.uk/
- Am I A Dreamer
- Oh, Little Darlin’
- Dear Mama
- Black Hearted Woman
- Midnight Train
- Can’t Stand The Morning
- Old Rock’n’ Roller
- Don’t Wanna Hear That Song
- You’ve Been Telling Lies
- You Don’t Need To Hold Me Tight
- Sea Of Dreams
- I’ll Cry For You Tonight
- Am I A Dreamer (Player Version)
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